昭和二十二年九月十七日 成増基地

大協約との開戦以来、海外に行く事が多かった陸軍独立飛行四十七戦隊。その本拠地は東京市練馬の成増基地だ。
新鋭機と優秀な搭乗員をそろえていたが故に常に最前線にあった"かわせみ部隊"だったが、この二年程は国内で落ち着いている。
とはいえ、あくまで本拠地がここであると言うだけだ。ここに帰ってくることはめったに無かった。
空軍準備委員会の直属部隊である彼らは国内中をほぼ毎日のように飛び回っていたのだ。
だから、高梨がこの基地に戻ってきたのはおよそ三ヶ月ぶりのことだった。

「まったく、どうしてあんな無茶するんですか。」
「悪気は無いんだ、すまん。」

既に薄暗くなった格納庫の一角で、高梨は整備班の藤岡大尉に頭を下げた。
藤岡は機体のそこここを軽く叩いている。ひとしきり叩き終わった後、彼はため息をついた。

「まあ、何とかなるでしょう。壊れてはいないみたいですから。
 ・・・でも、高梨さんほどの人だったら、あれがどんだけ飛行機に負担を掛けるかなんて判っているでしょうに。」

高梨は今日の午後、目の前で整備している機体に登場して訓練飛行を行っていた。
最初は普通に飛んでいた。初秋の澄んだ空気の中、ハ四五の轟音を聞きながらの飛行は気楽とさえ言えた。
だが、最近採用されるようになった二機単位での空戦練習が始まったところからがいけなかった。
ワイバーンとの空戦を想定し、高度千五百ほどで行われたその訓練で、高梨は"曲芸"ともいうべき挙動を繰り返したのだ。
急加速と急上昇。垂直上昇姿勢からの垂直降下。意図的に失速させての、いわゆる"木の葉おとし"。何回か判らないほどの横転。
地上で見ていた戦隊長の黒江少佐が”空戦訓練というよりはむしろ個人技の発表会だな”と苦笑いするほどだった。
その言葉どおり、その挙動に追従できた石井軍曹をはじめとする高梨の部下をほめるべきなのかもしれない。

高梨はばつが悪そうな表情をすると頭を掻いた。

「いや、正直すまんかった。なんというか、最近ずっと――」
「タービンロケット機に乗っていたから、急加速やら急旋回やらが、とにかく”急”のつく挙動が出来なかったから、と?」
「判ってるじゃないか。タービンロケット機は最高速こそ早いが加速が遅いし、何より回らないんだ。重爆だよ、あれじゃ。」

思わず答えてしまった高梨に対して藤岡は先ほどより大きなため息をつき、あきらめたように言う。

「事情はわかりました。黒江さんが言ってたとおりですね。ですが、空戦訓練ではあんまり無茶をしないでください。
 四式戦もいい機体ですが、こいつももう随分前の機体になるんです。大事に使わないといけませんからね。」

高梨は今度こそ本当に恐縮しながら藤岡に謝った。藤岡も苦笑いを浮かべながら頷き、機体に向かう。
明日も訓練だ。ともかく、今日の機動で無理が掛かった部分だけでも直しておかねばならない。二人は整備に没頭した。

「とうとう、明日か・・・」

暫くして、自分の作業がひと段落した高梨は独語した。その言葉に、翼の下で何かの調整をしていた藤岡が不意に振り向く。

「何がですか?・・・ああ、すみません、そこのメガネ取ってください。」

黒ぶち眼鏡に痩せ過ぎの体をした男に向かって眼鏡レンチを渡しながら高梨は軽く笑う。

「貴様、自分の渾名が"眼鏡"だという事を知っててそれを言うのか?」
「そんな事を一々気にしていたら整備なんかできやしません。・・・よっと。で、何が”とうとう”なんですか?
 ・・・すみません、ねじ回しもお願いします。」

高梨は肩をすくめる。その軟弱そうな外見に反して、藤岡は以外に押しが強い。高梨は工具箱からねじ回しを取り出して渡した。

「これでいいか?・・・とうとう明日、われわれは空軍所属になるんだ、そう思うと感慨深くてな。
 満州で陸軍航空隊としてロスケと戦うはずだった俺が、"新世界"で空軍軍人としてドラゴンと戦うとは・・・。
 何もかもが違いすぎる、そう思わないか?」
「ああ、そういや明日でしたね。ここんところジェシカ嬢のキ八三を整備するので忙しくて忘れてましたよ。
 双発ってのはそれだけで手間を食うもんで・・・いや、これじゃなくて、頭が十文字になってるねじ回しです。」

藤岡はその言葉とともに高梨が渡したねじ回しをつき返してきた。それを受け取った高梨は再び工具箱を漁る。
幸い、目的のものはすぐに見つかった。十文字型は最近になって見るようになった、新しい型式のねじに対応した工具だ。
高梨は藤岡に手渡しながら言った。

「すまん、こっちだったか。・・・何しろこの一年ばかり、ずっと空軍設立のあれやこれやで駆けずり回っていたからな。
 一段落したと思ったら、今度は新型機の評価と来ては休まる暇が無い。ようやく少し落ち着けそうで、何よりだよ。」
「どうですかね。新しいものは作るのも大変ですが、それを”持たせる”のも大変ですよ。
 なんにしてもそうでしょうが、ある程度”枯れ”ないと、やっぱり。・・・よし、これでいい感じだ。」

藤岡は満足そうに息を吐いた。どうやら作業がうまくいったらしい。彼は中腰の姿勢で翼の下から出ると腰を伸ばした。

「この四式戦だってそうでしょう?確かに良い機体ですが、使い続けるのには整備が欠かせない。
 そして整備が効率的に出来るのは、色々と"枯れて"きてるからです。空軍も、大変なのはこれからだと思いますよ。」
「確かにそうかもしれんな。・・・すまん、すっかり遅くなってしまったな。見てみろ。中秋の名月にはちょっと早いが――」
「いえ、私が手間取ったのもありますから。――確かに良い月ですね。」

二人は空を見上げる。初秋の澄んだ空気を切り裂くような、細い月が掛かっていた。

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「空軍設立前日の、藤岡君とのあのやりとりは今でもはっきり覚えておる。
 加来さんの手下になって、というかさせられて以来・・・いろいろ駆けずり回らされたからのう。」

国内で行ってない場所なんぞ無いのじゃないかと言うくらいに移動したな。
もっともほとんどが通り過ぎるだけで、名物を食ったりなんぞ出来なかったわけじゃが。
あれはあれで悲しいものじゃ。

「でもそれは、おじいちゃん達が優秀な人だったからじゃないの?」
「それが名物を食うのと何の関係がある?」

孫が不思議そうな顔をしおる。しまった、思わず考えておった事が思わず口に出てしまった。
今のやりとりでは会話になっておらん。そんな顔で見るな、と言いたいところだが・・・無理も無いか。
ボケたと思われてはかなわん。やれやれ、歳はとりたくないのう。話を元に戻すとしようか。

「どうかのう・・・彼方此方行って何をやっていたかと言えば・・・模擬空戦やら新鋭機の試験やらをしてただけじゃからな。
 それに、大体、あの当時のわしは航空機を飛ばす以外はあんまり興味も無かったのじゃ。」

もっとも、それは今もそうかもしれん。この歳になっても、まだ飛行機を飛ばしたくなるからな。
そういえば、この前操縦した、"疾風"はなかなか良かったのう。
観光客向けのレプリカらしいが、それなりにちゃんとしておったからな。
あちこちが電子頭脳制御になっていたのはいただけんが、そればかりは仕方ないじゃろう。時代の流れじゃ。

「ふうん。おじいちゃん、本当にエリートだったんだね?すごいね!」
「エリートか。どうかのう。」

とは行ってみたものの、そういわれると悪い気はせんな。

「ただまあ、我々よりも実践を経験している部隊が無いのも確かじゃった。
 何より、わしと黒江さん以上にドラゴンを落としている搭乗員は・・・陸海軍あわせてもそれほどおらんかったからな。
 そういう人間から見て”現実的に役に立つ”戦訓を伝えていく、という任務もあったのは確かじゃ。」
「すごいや!」

孫はきらきらした目をこちらに向けおる。うむ、視線が気持ち良いのう。
・・・そういえば、わしは昔からおだてに弱かったな・・・そこを加来さんにつけ込まれたのかもしれん。
それはともかくじゃ。

「ともかく、空軍も無事設立されてな。そして、わしは次の任地へ向かうことになったのじゃ。
 忘れようにも忘れられん、あの場所へな。」

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昭和二十二年十月十一日 横須賀

高梨は横須賀に来ていた。
この街はあの空襲で市街地の大部分を喪失しているはずだったが、街の姿はそれを思わせないものだ。
いや、見方によっては以前にも増して繁栄しているとも言えるだろう。
――戦争が続いている以上、海軍の街と言ってもいいここが発展するのはある意味当然か。
  ここから任務に赴くやつも多いわけだからな。俺のように。
彼は昨日、黒江中佐と交わした会話を思い出していた。

「昭南基地航空隊勤務を命ず。・・・南方の昭南島ですか?これは随分とまた・・・、」

言いかけて高梨は口をつぐんだ。黒江中佐は口を開いて何か言いかけたが、それを途中でやめる。
高梨が訝る間に、彼は表情を意地の悪い笑みに変えながら言う。

「なるほど、貴様はそう思ったわけか。あんなところに敵が来るはずが無い、そう言いたいのか?」
「いや、そういうことでもないですが・・・」

へどもどと口ごもる高梨を見て黒江中佐は声を上げて笑った。

「まあいい、その様子だと説明するよりも実際に行ったほうが話が早いだろう。まずは横須賀に行け。
 そこで説明してくれる人間を――そうだな、先に行った三木君とジェシカ嬢を用意してもらうようにする。」

高梨には黒江中佐の考えがさっぱり理解できなかったが、少なくとも今は何も説明する気が無いということだけは理解できた。
それに実際に行けば判ると言うのならば、今は余計な詮索をする必要も無いだろう。そう考えた高梨は頷いて言う。

「判りました。いつ行けば?」
「明日だ。急で済まんが、これが空軍のやり方だと思ってあきらめてくれ。」

あっけに取られる高梨をよそに黒江は人の悪い笑顔を浮かべ、からからと笑った。

高梨は腕時計を眺めた。約束の十一時まであと二十分ほどだ。彼は少し早くついてしまったのだ。
遅れるよりは良いか、高梨はそう思いながら目を眇めて軍港の風景を眺めた。
十年前では想像もつかないような、巨大な起重機が何基も見えた。
彼は似たような姿の重機をムルニネブイで見たことがあった。"新世界"の魔道工学技術を応用したものに違いないだろう。
その他にも巨大な鯨のような潜水艦や、数え切れないほどの船が忙しげに行き交っているのが見える。
道路を荷物を満載した大型のトラックが列をなして駆け抜けていくのが見える。
此処は最前線と繋がっているのだ、高梨はそう実感した。

彼は随分と風景を眺めていたようだ。あたりを見回しているうちに、一台のダットサンらしき車が近づいてきた。
開戦前に走っていた自動車と比べると明らかに静かで、滑らかに走っている。
その動きはフォード製の自動車と比べても遜色ないどころか、一部上回っているようにさえ思える。
――それだけ、工業の質が高まってきた、と言うことか。

高梨が感心するうちに自動車は彼の目の前にくる。扉が開き、中から一人の空軍士官が降り立った。
空軍制服姿の三木六蔵だった。高梨と同じく、かれも中佐に昇進している。
彼は高梨の姿を見つけ、いつものような笑みを浮かべる。その姿に高梨は若干の違和感を抱いた。
歩き方はいかにも海軍仕官なのに、着ている衣装が空軍制服だからかもしれない、彼はそう思った。
空軍の紺を基調とした制服は三木によく似合っていた。
海軍の白い服装も十分華麗に着こなしていたが、空軍の制服の似合い方はそれ以上だった。
三木はどこか野暮ったい部分もある制服を、まるで舞台役者のようにしっくり着こなしている。

「三木、なんで貴様はそんなに上手に着こなせるんだ?」

挨拶もそこそこに高梨は尋ねた。三木はあくまでもさわやかに答えた。

「さあ?私は普通に着ているだけですよ。そんなに似合っていますかね?」

三木はいつもどおりの薄い微笑をたたえている。

「もちろん!三木さんは何を着ても似合いますよ!」

彼に寄り添うように立つジェシカが言った。彼女は漆黒の同盟軍軍服を着ている。
そう言って胸の前で手を組み、小首をかしげる。空軍での彼女は三木にべったりだが、表立って批判するものもいない。
彼女が剣と魔法に優れた銀竜騎士団員であるというだけではない。どういうわけか、航空機での空戦に天賦の才があったのだ。
ジェシカはキ八三"旋風"をまるで手足のように扱い、明らかに性能以上の空戦能力をたたき出している。
銀竜での膨大な飛行時間――四歳の頃からほぼ毎日滞空しているから、軽く五千時間以上――の影響だろう、そう言われている。
高梨も"撃墜"されそうになったことは一度や二度ではないが、もはや時間の問題かもしれないと思っていた。
二人のあまりの仲のよさに、高梨は反論する気もなくしていた。

「まったく、貴様等はいつも・・・まあいい。」

高梨は肩をすくめた。気を取り直して言う。

「ところで、俺は昭南基地勤務のため、まずはここに来いと命令されたのだが・・・ココからどうするのだ?フネにのるのか?」
「そうですね、早速乗り込んでもらうことになります。高梨さんは歴戦の”竜殺し”ですから、皆着任を心待ちにしていますよ。」

ジェシカがようやく本来の任務を思い出したのか、少し改まった表情で言った。

「そこまで持ち上げられる程ではないだろう。で、どのフネに乗るんだ?」

三木が不思議そうな顔をして高梨を見る。何を言っているのか判らない、そういう表情だ。

「どのフネ?どういうことですか?昭南に決まっているじゃありませんか。」

高梨も顔を顰める。三木の言うことはさっぱり判らない。

「だから、何処にあるのか知らないが、昭南にある基地に向かうためのフネに乗るんだろう?」
「ええ。まずはヨウカンに慣れてもらうことから始まるとは思いますが――」

ジェシカの言葉に高梨は眉をひそめる。確かに甘いものがすきなのは知っているが、今言うようなことでもないだろう。

「羊羹?何を言っているんです?俺は日本人だから、羊羹ぐらいは食べた事がありますよ。むしろ大好物です。」
「ですよね、私も大好きです・・・って、そういう話ではないんですが・・・」
「いや、ジェシカさんが先に羊羹とか言うから。」

言ってから、流石に高梨もおかしいと気がついた。会話が噛み合っていない。ジェシカも同感なのか、難しい顔をしている。
いつもの微笑みに若干苦いものを浮かべていた三木が、不意に手を叩いた。何かに気がついたらしい。

「・・・もしかして、黒江中佐からは何も聞いてない、ということですか?」
「俺が聞いたのは、横須賀に行けば貴様が迎えに来てくれるだろう、詳しくは貴様から聞け、それだけだ。
 ほかの事は知らん。・・・どういうことだ?何か手違いか?」

三木中佐はその微笑を苦笑に変えて言う。

「判りました。では、まずは車に乗ってください。実際に、見たほうが早いでしょう。」

困惑する高梨を促し、三木はダットサンに乗った。

車は軍港施設内に入り込んだ。そのままいくつかの建物を通り過ぎると、大型艦用への桟橋からは少し離れた場所で止まる。
彼等はそこで車を降りると、一隻の大型艦の元へと歩を進めた。まるで箱のような、四角い船だ。
だが、断じて輸送船ではない。少し張り出した飛行甲板からも明らかなようにに、それは航空母艦だった。
それにしてもそのフネは巨大だった。少なくとも、砂漠に行くときに乗った<蒼龍>よりも二周りは大きい。
<蒼龍>に比べると形も多少不自然だった。高梨は見上げるようにしてそのフネを眺める。
少しして、彼はその不自然さの原因に気がついた。艦首と艦中央部が<蒼龍>他の航空母艦と異なるのだ。
艦首の方には何やら出っ張りがついている。艦船に詳しくない高梨には、何に使うのものかさっぱり検討がつかない。
おそらく<風の海>か何かで使う、重石代わりの何かだろう。彼はそう納得した。
艦中央部にある違和感の原因はすぐに判った。航空機用エレベータが横についているのだ。
確かに便利かもしれないが、あれじゃあ水が入って乗員は大変だろう。高梨は思った。
塗装も真新しいし、どう見ても最新鋭艦だ。輸送任務にはもったいない。
しかし、波止場には他の船の姿は無い。ということは。

「・・・まさか、これに乗っていくのか?しかし、こんなでかい航母が輸送船代わりとは、随分贅沢だな。」

高梨が漏らした言葉に三木は首を振った。顔には相変わらずの謎めいた笑顔が浮かんでいる。

「これに乗っていく、という部分は正解です。でも、後はだいぶ違います。」
「何が違うというんだ?乗っていくのはあってるという事は、要するにこれで昭南まで行くわけだろう?
 どう見ても航空母艦なこのフネで昭南島まで行くということは、輸送船代わりに使うと言うことじゃないのか?」
「ああ、判りました!高梨さん、これは空母じゃないんです。これは、ヨウカンなんです。」

ジェシカの頓珍漢な言葉に高梨は苦笑を浮かべる。
五年以上の付き合いになるが、彼女はまだ日本語が多少不自由なのかもしれない、そう思ったのだ。
彼はなるべくジェシカを傷つけないように言葉を選びながら言った。

「そりゃ、確かに四角で細長い形をしているので、航母の秘匿名称として”羊羹”というのは悪くないとは思いますが・・・」
「高梨さんが間違っています。これは、ヨウカンであってるんです。・・・確かにちょっと変ですがね。」
「どういうことだ?」

三木の言葉に高梨は戸惑った表情と声音で言う。三木はいっそさわやかに言った。

「"洋上空軍機発着場提供任務艦"、略して”洋艦”なんです。平たく言えば、空軍空母ということですよ。」

あまりのことに高梨は絶句した。

「これ、本当は大和級四番艦になるはずだった艦です。艦尾延長やらバルジ追加やら何やらで原型はありませんけど。
 呉で建造中止になっていたところを空母として設計しなおし、ムルニネブイ海軍に売却される予定でした。
 予定艦名は古の武神――<<大いなる海>>を支配した偉大な神からの名前から、<ヨ=ナガ>に決まっていました。」

ラッタルを上りながらジェシカが説明する。三木が言葉を引き取って続けた。

「空母としての工事が八割方完成したところで、<風の海>海戦がおきたんです。あれが事情を変えました。
 あの敗北から一連の流れで空軍が発足することになった際に、日本が――空軍が買い戻すことになりました。
 ほら、鳥取中将のアケロニア空爆――あの成果を元に”独立空軍にも空母が必要だ”と加来大将が主張したらしいんです。
 ・・・でもまさか、高梨さんが知らないとは思いませんでしたよ。」

やっとの思いで高梨は答えた。

「いや、俺はどちらかと言えば空戦技術伝授とか新型機とかの方に回っていたからな。これはまったく知らなかった。」
「確かに、存在自体が秘匿されていましたからね。・・・ともかく、ようこそ<昭南>基地へ!」

ラッタルを上りきった三木中佐が、菩薩のような笑顔を浮かべて高梨に敬礼しながら言った。


初出:2010年8月1日(日) 修正:2010年8月8日(日)


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