結局、敵航空部隊は現れることは無く、百式重爆による兵舎及び弾薬庫への爆撃が始まった。
煉瓦作りの建物が崩れ、石のドームがただの瓦礫になっていく。
逃げ惑う人馬の群れに、九九式襲撃機から容赦ない機銃掃射が浴びせられる。
いかに鋼の鎧とはいえ、機関砲弾に耐えられる道理はない。兵士達は次々と倒れていった。
事前の空撮では【教会】と同様に司令部施設と目されていた、瀟洒な洋館風の建物に100キロ爆弾が次々に直撃する。
三階建てだった洋館の上半分、二階部分までが綺麗に消し飛んだ。
崩落した建物から鎧を着た人間達が飛び出してくる。守備隊の兵士達だろう。
彼等は勇敢だった。手にした弩を空に向けると高梨の機体に向けて射撃を開始する。
刹那、高梨は機体に微妙な振動を感じた。
――撃たれた?
銃で飛行機を撃ってもそうそう命中弾は出せないというのに、弓をあてるとは・・・
敵の技量に対して畏れにも似た敬意を払いつつも思う。
――あれだけの手練を放って置くわけにはいかない。ここで確実に始末する。
残弾の残りを気にしつつ、兵士達に向けて機首を向けて発砲する。
弾丸が兵士達の胸甲を打ち砕き、確実に命を奪っていく。
それは半ば虐殺であり、高梨はその決意とは裏腹にどこか空虚にそれを見つめていた。
差し渡し三メートルほどの大型の石弓――ほぼ攻城兵器と言える武器を持ち出した者達もいた。
それを三人がかりで番え、爆撃隊に向けて放つ。
石弓の矢はただの矢とは思えぬ速度で百式重爆の編隊に向かうが、いかんせん単発では損害を与える事は出来ない。
それでも、十秒ほどの間隔で発射される巨大矢は明らかな脅威だった。
高梨が攻撃を考えたそのとき、海軍機が石弓に向けて降下し、機銃掃射を行った。
石弓に取り付いていた兵たちが次々と倒れていくのが見えた。
同様の光景は街のあちこちで繰り広げられ、リオンの抵抗力は失われつつあった。
「第三飛行集団司令部より全機へ。
第二次リオン空爆は所定の戦果を収めたと判断。
全機帰還せよ。繰り返す、全機帰還せよ。」
〇八四七。司令部からの通達により第二次空爆部隊は全機帰還した。――数機の犠牲を除いて。
高梨は、黒江大尉機に続きながら坂川少佐の言葉について考えていた。
――戦訓か。この戦いで、我々は一体何を学んだのだろうか。
"腕なし竜"について?【教会】について?・・・敵の勇敢な石弓兵について?
彼は思った。いや、それも確かに一つの側面ではあるが――
――情報が圧倒的に不足していた。我々は敵を知らなさ過ぎた。それをこそ伝えるべきだ。
この戦で勝てたのは偶然に近いだろう、高梨はそう考えていた。
例えば"腕なし竜"。基地防空ばかりでこちらの飛行場に対して攻撃を仕掛けてくることが無かった。
しかし、仮に"腕なし竜"の夜襲を受けていた場合――全滅するのはこちらだった筈だ。
敵は――二式単戦ほどではないが――制空戦闘機として充分な空戦性能を持ちつつ、体力の続く限り爆撃を行うことが出来る。
どう考えても分が悪い。敵がリオン防衛を優先した結果、たまたま勝利に転んだだけかもしれない。
【教会】にしてもそうだ。
あれ程の防空設備が、敵本拠地から離れた――ほとんど見捨てられたと言って良い基地にすらあるのだ。
敵と本格的な戦闘に入ったのなら、いったいどれほどの【教会】を倒さねばならないのだろう。
何か動くものが見える。正面右下方に目を凝らすと、何か黒い点が複数、低空を緩やかに飛んでいるのが見えた。
おそらく鳥の群れだろう。
彼はそう思いながらさらに見つめる。あっという間に距離が縮まり、それが予想通りの鳥の群れであることが判った。
大柄で翼が大きく、すらりと伸びた長い首が美しい――まるで鶴のような、だが緑色をした鳥だった。
――そうだ、軍事だけではない。例えば、あの鳥一つにしても俺は何も知らない。
あれがなんという鳥なのか、どういう習性を持つのか。それにどういう意味があるのか。
俺は知らない。敵だけでなく、この世界の全てを。
彼は否応なしに気付かされた。
日々の暮らしで不自由を――得体の知れない動物を食べている等はあるが――特に感じないので忘れかけているが、ここは"地球"ではない。
"新世界"なのだ。
――俺が生まれ、育ってきた星とは違う。ここでは俺達日本人は少数派の"異人"だ。
今までの常識を全て忘れ、この"新世界"の常識を早く覚える必要がある。
無線での会話も無い。疲れているせいもあるだろうが、皆何かを感じ、考えているのだろう。
高梨も考え続けていた。
昭南第一飛行場が見えてきていた。
"鍾馗"隊は全機無事に着陸した。高梨は機体を整備員達に委ね、周りを見回してみる。
整備員が外板を外しはじめている機体がかなりあることに気が付く。
「・・・こいつは酷い。いや、凄いというべきなのかもしれんが・・・」
整備を仕切る刈谷大尉がぼやく。高梨は思わず聞き返した。
「酷いというのはまだ判りますが、凄いというのは?」
「こいつを見てみなよ。」
刈谷大尉はそう言うなり棒状の何かを突き出す。
「これは・・・寸詰まりの矢ですね。石弓の矢に見えます。」
「そうだ。あそこの機体」
そういって翼に整備員がしきりに取り付いている"鍾馗"を指差すと続ける。
「あれに10本以上も刺さってやがった。貫通したわけでなく"食い込んだ"程度ではあるがな。」
高梨は驚愕した。確かに、石弓を撃たれた感触はあったが――
「矢がジェラルミンに食い込んだと言うことですか?そんな事が。」
そこまで言って彼は思った。
――稲妻を自在に操るような奴等だ。何が出来ても不思議じゃない。
刈谷大尉はそんな高梨の思いを知らず、続ける。
「大体・・・この矢、何で出来てるんだろうな。重さからして、鉄じゃなさそうだ。」
「そんな事判るんですか?」
「経験上、大抵の材質は見た目で判る。だが、こいつはさっぱり判らん。
少なくとも鏃は鉄じゃない。それは間違いない。色からして違うし、何より持った感じが全く違う。
鉄の鏃にしては重すぎるし、といって重金属を使っているはずも無いだろうからな。見当もつかんよ。
だが、この柄の方も・・・」
そういって両端を手に持つと力を込めて折り曲げる。両端が接するまで曲げてもしなやかに撓むだけで折れない。
「この通り、木にしては異常なほどのしなやかさだ。この太さでこのしなやかさは異常だ。
生木なら兎も角、矢に使えるような乾いた木ではな。」
彼は少し遠くを見ながらつぶやいた。
「この材料で航空機を作れればなあ・・・時代が変わるかもしれん。
それは兎も角、俺達は、この世界のことをもっと知らなきゃいかん。"無知は死の影"だよ。」
刈谷大尉の言葉に、高梨は心の底から同意した。
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「それからまもなく、第十六軍はリオンを無事占領したのじゃ。ワイバーン無しでは防空もままならんからな。」
「おじいちゃん達が敵のワイバーンを全滅させたんだ!凄いね!」
孫は単純に興奮しておる。そういう話では無いと思うのじゃがな。
まあ、麦茶を飲んで喉を潤してからじゃな。
「わしらだけで全滅させたわけではないぞ。
第三飛行集団――ああ、ようするにわし等のチームも所属するもっと大きなグループが総出でやったんじゃ。
それに実際のところ、わしら陸軍よりも海軍さんの方が活躍しておる。
もう少し大きくなったら本を読むなりして調べると良いぞ。」
実際、帰国してから新聞で読んだ海軍さんの活躍ぶりたるやとんでもなかったからのう。
自分が直接携わったわけではないから完璧に覚えているわけではないが。
「いきなり戦艦を沈められたわけじゃからな。とにかく働けるところを見せ付けないといかんかったのじゃろう。
そのせいか、南雲機動部隊の活躍たるや鬼気迫るものがあったぞ。
新聞ではやたら伏字が多かったからどこで何があったのかサッパリ判らんことも多かったがな。
とにかく、三月までに二回も大海戦をやって、両方に勝利したわけじゃからな。
そのおかげで陸軍は無事に昭南島西部占領作戦を成功させられたようなもんじゃ。」
・・・ふーん、そうなんだ、とどこか気の無い返事を返しおった。
まあ、確かに当時もそんな感じではあったがな。
海軍さんには気の毒じゃが、最初が悪すぎたのじゃ。
「そして、そのあと間もなく日本に帰ってきたわけじゃ。
といっても、次の任務のための準備期間じゃったわけじゃが。」
「どういう事?何の準備?」
ほう、何となく大事な話だと思ったのか、メモの準備をしておるな。
わしに似て感が良いやつじゃ。いい飛行機乗りになれるぞ。頭さえ良ければな。
「・・・わしらは現地のことをホトンドなーんも知らんと戦いに行った。
そして、"知っていれば防げた"筈の被害を受けた。それが問題になったのじゃ。
じゃから、ひとまず同盟国から情報を得て色々学び、小規模な部隊――チームじゃな、これを同盟国に派遣して実地で試し、それから 全力を挙げて戦う事にしよう、となったわけじゃ。
最初っからそうしてくれればもっと被害は少なかったのじゃがな。」
とは言うものの、それが不可能だったじゃろう。
少なくとも、敵が昭南島西部に配備していた部隊をどうにかせん事にはいつ第二次本土空襲があるか判らんかったのじゃから。
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成増に帰ってきた四十七戦隊を出迎えたのは意外な人物だった。
「貴様等遅いぞ!何をやっておったか!」
坂川少佐は悪童のような笑みを浮かべながら話しかける。
「・・・少佐殿?生きておられたのですか!」
しばし絶句した後、高梨はかろうじて声を出した。
「当たり前だ。あの程度の電撃で死んでたまるものか。
・・・と言いたいところだが、実際は危うかったな。多分、稲妻の出力が完全でなかったんだろう。
エンジンは止まったが、機体をだましだまし味方の戦線まで持っていくことが出来た。危ないところだったよ。」
そこで坂川少佐は言葉を切る。戦隊の全員を見渡すと、笑みから悪童らしさを消した。
「よし、俺の命令どおり一名たりとも欠けることなく日本に戻ってきたな!
貴様等、よくやったぞ!」
飛行場に歓声が弾けた。
ひとしきり皆が落ち着いた後、改めて総員を整列させた坂川少佐は続ける。
「我々が日本に戻ってきたのは先の命令通り戦訓を伝えるためである。
そして、その作業にあたっては同盟国との共同作業が不可欠であるとの判断が下った。
よって、我々はこれから同盟国の軍人と行動を共にする事となる。」
場がどよめいた。
「貴様等が驚くのも判る。
だが、この戦争を勝利に導くためには、同盟国との密接な協力が不可欠だ。
仮にトーア大陸同盟が敗れた場合、日本は単独で世界を敵に回すことになる。
それだけは何としても避けねばいかん。」
黒江大尉が発言を求める。
「了解いたしました。しかし、我々は同盟国人の言葉を話すことは出来ませんが、大丈夫なのでしょうか?」
高梨もそれは疑問だった。
「それは問題ない。どういう理屈か良く判らないが、兎に角言葉は通じるらしい。少なくとも通訳は不要だと聞いている。」
全く要領を得ない発言だったが、これ以上の回答は望めそうに無い。
黒江大尉も同感だったらしく、次の質問に移った。
「同盟国の方はいつ来るのですか?」
「明後日と聞いている。それまでにやる事は山ほどある。他に質問が無ければ、早速準備に取り掛かるぞ。」
二日後、同盟国の武官が成増飛行場に到着した。
車から降りたのは二人であったが、二人とも高梨たちの予想を上回る人物であった。
「大トーア大陸同盟軍武官、ムルニネブイ王国軍銀竜騎士団 ジェシカ・ディ・ルーカであります。
日本陸軍独立飛行四十七戦隊に着任いたしました。
これからしばらく皆様とご一緒させていただくことになります。何卒よろしくお願いします。」
糊の効いた黒い詰襟の軍服を着た小柄な人物が挨拶をする。
右肩から黄色の飾緒が下がっている。参謀飾緒にも似ているが、多少異なっているようだ。良く見れば、勲章も幾つかつけている。
磨きこまれた革の長靴に乗馬用ズボンがよく似合っていた。左腰に幅広の西洋剣を帯剣している。随分と豪奢なつくりに見えた。
日本語も流暢だ。こちらの世界のしきたりとは随分異なるだろうに、日本によく順応しているようだ。
ただ、もっとも予想を裏切ったのは――その人物が女性であったことだった。
身長は150センチほどだが長靴のせいか随分と高く見える。
流れるような金髪は肩の少し先まで垂れて、半ば飾緒と一体化している。
白磁のような、だが白人種とは違うきめ細かい滑らかな素肌を黒い軍服に包んだその姿は、女性軍人など見たことも無い高梨たちにとってはひどく倒錯的だった。
そして、何よりも――彼女は若かった。おそらく、二十歳になっていないだろう。十七、八といったところか。
これで眼力でもあればまだしも軍人だということが信じられるのであろうが、彼女の碧眼からは覇気のようなものは感じない。
隠しているのであれば大した実力といえるのだろうが――車から降りる際に転びそうになっていた事から考えると本当にただのお嬢様なのかもしれない。
これで武官が務まっているのだろうか――高梨はそんな事を考えているうちに、もう一人が自己紹介を始める。
こちらも尋常ではなかった。
「大トーア大陸同盟軍ムルニネブイ王国軍銀竜騎士団騎竜 アルフォンスであります。
ジェシカ様ともどもよろしくお願いいたします。」
そう名乗った男性は女性武官よりも言葉は短に告げ、軽く微笑む。
こちらも若く見える。二十台前半であろうか。
服装はジェシカと同様の軍服であった。
だが、勲章の類はつけていないし、飾緒もない。帯剣もしていない。先の女性に敬称をつけている事からしても主従関係なのだろう。
この場に居る誰よりも頭一つ高く、厚みのある筋肉質な体に、黒い軍服は良く似合っている。
軍人らしくない中央で分けられた髪型とそれが銀髪である事は異例ではあるもののまだ受け入れられる。
だが、その双眸はまるでルビーの様な真紅の瞳を持ち、肌の色もまるで漂白したように白い。
――いわゆるアルビノであった。
高梨は西洋人を見たことが無かった。
とはいえ、写真や絵画では見たことがある。金髪碧眼の人間というのが存在する、というのは少なくとも知識としてはあった。
流暢な日本語には驚かされたが、他国の軍と行動を共にする武官であればむしろ当然とも言えよう。
だから――あまり軍人のように見えない点を除けば――ジェシカと名乗った女性のほうには、それほどの違和感はない。
しかし、もう一人の人物はあまりにも異質だった。
表情自体は穏やかで、眼にも確かな知性を感じる。所作も洗練されており、品格も感じさせる。
その点だけを取ってみればジェシカよりも明らかに高位に思えるほどだ。
見た目が銀髪白肌赤眼のアルビノである事に起因しているのか、と高梨は納得しかけたが――
――いや、そうじゃない。何か、もっと根本的なものだ。
アルフォンスから出ている雰囲気は人間が出せるものではない。まるで、別の何かが敢えて人の姿を取っているような――
彼はそこまで考えて、自分の考えの馬鹿馬鹿しさを哂った。そんな事があるはずが無い。
高梨ほどには動揺していない坂川少佐が話しはじめた。
「皆も気が付いただろうが、トーア大陸同盟とわが軍では軍組織が違う。
ジェシカ武官殿は本来は「銀竜騎士団員」というのが正式な身分だが、日本軍には相等の階級がない。
さしあたって、ジェシカ殿は特務大尉、騎竜のアルフォンス殿は特務少尉という事になる。
戦闘指揮権は今のところ無いが、必要に応じて俺から依頼することはあるだろう。
何か質問はあるか?」
高梨が質問する。
「細かい事はこれから一緒にやっていけば判るとは思っていますが、一つだけ確認したくあります。
ジェシカ殿の"銀竜騎士団員"というのは理解できますが、アルフォンス殿の"騎竜"という階級はどいういった意味合いでありましょうか?」
アルフォンスは坂川少佐とジェシカの二人と目配せする。二人が共に頷き、まず坂川少佐が口を開く。
「それについてはアルフォンス特務少尉から直接説明してもらうとしよう。」
アルフォンスはそれを受けて発言する。
「私は文字通り、"騎竜"としか申しようがありません。
ひとたび戦となれば、私は本来の姿に立ち戻ります。そして、この背に騎竜鞍を着け、ジェシカ様と戦いに赴きます。」
「と、いう事は」
「おそらく大尉殿の思われている通り、私はドラゴン、シルバードラゴンと呼ばれる種族です。
ジェシカ様の御生家、ディ・ルーカ男爵家と、先々代様の時から"契約"をさせていただいております。」
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「あれが、ドラゴン族を間近で見た初めてじゃった。」
しみじみと思い出す。それ以前にも横須賀上空で見ておったが、あの時は竜型じゃったからな。
人型をとっているドラゴンというのがああいうものじゃとは知らんかったからのう。
「アルフォンスさんって、いっつもお歳暮にみかんジュースくれる人?」
「そうじゃ。人というか、シルバードラゴンじゃがな。」
孫の質問に答える。考えてみれば、竜が人にお歳暮を送るというのはどうなんじゃ。
"お世話になった人には年末に贈り物を贈る"というのを、何か妙な方向に誤解しているフシはある。
とは言え、じゃ。
「あいつとは色々あったからのう。助けたり助けられたり、じゃった。
ああ、これはもう少し後の話じゃな。大陸に行ってからの話じゃ。」
なるほどーなどと言いながら何事かメモを書き、終ったところで質問が来た。
「それで、ジェシカさんとアルフォンスさん達と色々お勉強したんだね。」
「・・・お勉強というのかは判らんがな。色々やったぞ。
わしらが昭南でやった先方をアルフォンスと模擬空戦で確かめたり、大陸同盟諸国の文化を学んだりな。
中でもジェシカが指導しての魔法剣術練習は面白かったな。」
「魔法剣術・・・って、剣に"帯電魔術"とかかけて攻撃するやつ?」
「そうじゃ。女相手と面白半分に侮った士官がコテンパンにのされた事があってな。」
あれは凄かったな。
何とかという有名な流派の出の士官(流派も士官も名前は覚えとらん)と他流試合をしたのじゃ。
文化交流とか何とか言う名目じゃったが、まあ、ポッと出の外人特務大尉というのが気に入らんかったのじゃろう。
威勢良く掛かっていった士官殿は、軽く攻撃をいなされ、帯電した剣の一撃で昏倒したんじゃ。
後から考えれば無謀以外の何者でもないな。
何しろ剣から電撃が飛び出したり、炎をまとわりつかせた剣で攻撃したりしてくるのじゃから勝てるはずも無いわな。
「それからというもの、隊の連中は彼女に魔法剣術を習っておったな。」
ま、かく言うわしも習っておった。あいつ、何故だか剣術やら魔術やら空戦やらでは滅法強かったからのう。
・・・普段は段差も何も無いようなところでコケるほどとろくさいのに。
「二ヶ月ほど"お勉強"やら訓練やらで成増ですごしてから、わしらはムルニネブイ国へと向かったのじゃ。
独立第四十七飛行戦隊と独立第八十七飛行戦隊、会津若松二十六連隊を中核とした先遣隊の一員としてな。」
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初出:2009年11月8日(日) 修正:2010年6月6日(日)